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福岡高等裁判所 昭和47年(う)486号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人坂口孝治提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

同控訴趣意(量刑不当)について

所論は要するに、原判決は未決勾留の算入をしなかったことは不当な刑の量定であるというに帰する。

よって検討するに、およそ未決勾留日数の本刑算入の違法は別として、その当否に関する限り、本来刑の量定そのものに関するものではないが、これに準じ、刑事訴訟法三八一条にいわゆる広義の量刑不当にあたるものとして、控訴理由とすることができるものである。したがって、本件の如く未決勾留日数の全部又は一部が算入されないことの不当を主張するものにあっては、不算入の結果、科刑が重きに過ぎるとの主張に帰するので、これに対する判断は、被告人に対する量刑全体を対象とし、積極的又は消極的な量刑事由と共に実質的に総合考察することとなる。しかしその結果、原判決の本刑が全体として妥当な場合には右不算入の主張は理由がなく、少くとも判決に影響を与えるものではない。言い換れば、未決勾留日数の不算入が仮に妥当でないとしても、科刑が実質的に相当である場合、つまり本刑が算入したと同じ結果のものとみられる限り、該控訴は理由なきに帰する。

そこで、右の趣旨に従い本件科刑の当否を按ずるに、被告人に対する原判決の刑は罰金一万五、〇〇〇円であって、記録に現われる被告人の年齢、境遇、本件犯罪の態様及び犯罪後の情況等に鑑みるときは、所論指摘の未決勾留の事実を考慮しても、なおかつ相当というべきであって、原判決の右科刑をもって重きに失するものとは認められない。

のみならず、勾留に関する事実を調査するに、被告人は昭和四六年四月二九日起訴と同時に勾留されて、同年七月八日保釈されたものであるが、右勾留期間のうち、同年五月二四日より七月二日までは東京拘置所に移監されていたものであり、右移監は東京地方裁判所に係属せる別件(兇器準備集合及び公務執行妨害被告事件)につき、同年五月二五日、六月三〇日及び七月二日の各公判期日に被告人として出頭し審理を受けるためであったことが認められ、これがため、原審における本件審理は同年七月四日に第一回公判期日が開かれたものであり、同月八日被告人を保釈し、その後同四七年七月一三日まで前後一三回の公判審理がなされているものである。そうすると、原審が本件につき、未決勾留日数の算入が可能であったとしても、右算入をしなかったことをもって、直に不当と断ずることはできないことが認められる。

以上のとおりであるから、原判決の刑の量定は所論指摘の未決勾留日数の算入をしなかった点を考慮してもなお相当であって、その他記録を精査してもこれを不当とすべき事由を発見することはできない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田勝雅 裁判官 井上武次 仲江利政)

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